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東京高等裁判所 昭和56年(ラ)828号 決定

抗告人

横井茂治

右代理人

中野新

相手方

パール産業株式会社

右代表者

渡辺徳三

右代理人

岡村共栄

主文

原決定を取り消す。

相手方の即時抗告を棄却する。

当審及び原審における訴訟費用は相手方の負担とする。

理由

民事調停において当事者間に成立した合意を記載した調書は、確定判決と同一の効力を有するから(民事調停法一六条、民訴法二〇三条参照)、調停調書に明白な誤謬があるときは、民訴法一九四条の規定を準用して、裁判所は、いつでも申立て又は職権により決定でこれを更正することができるものと解すべきであ判旨る。そして、右の明白な誤謬とは、調停調書の作成者において表現しようとした事項につき誤記、遺脱等の存することが調書記載全体の趣旨、調停の全過程に現われた資料等に照らして明確に看取することができる場合を指すものというべきである。本件についてこれをみるのに、本件調停調書の土地明渡しの条項(第二項)は、本件記録により窺知しうる抗告人の調停申立ての目的並びに本件調停調書のその余の条項を総合考察すれば、その文言どおり単純な土地の占有移転のみを意味するものではなく、当事者においてその地上に建在する本件更正決定申立書末尾添付建物目録記載の建物の収去をも包含せしめる意思で該給付を約定したものであつて、その表現に建物収去の部分が遺脱しており、また、明渡しの目的物件たる「本件土地」が「本件調停調書末尾添付物件目録記載の土地」を指称することも明らかであるので、本件調停調書の右条項には、所論のような明白な誤謬があるものというべきである。したがつて、その是正を求める抗告人の本件更正決定の申立ては、理由があり、本件調停調書に明白な誤謬はないとして、第一審裁判所の更正決定を取り消し、抗告人の申立てを棄却した原決定は、民訴法一九四条の適用を誤つたものであつて、論旨は、理由があり、原決定は、取消しを免れない。

よつて、民訴法四一四条、四〇八条、九六条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(渡部吉隆 蕪山厳 安國種彦)

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